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名古屋地方裁判所 昭和58年(ワ)142号 判決 1984年9月14日

原告

森純子

被告

萩原浩

主文

一  被告は、原告に対し、金一三九万〇九二五円及びこれに対する昭和五六年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを七分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五六年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生と原告の受傷

被告は、昭和五六年七月七日午後一一時五〇分ころ、被告所有にかかる軽乗用車(車両番号八八福岡え八一七二)を運転し、福岡県筑紫野市大字山口の左にカーブする道路を走行中、前方不注視のため運転を誤り、自車を反対車線に進入させたうえその外側に設置されたダムの欄干に衝突させる事故を起こし、右車両の助手席に同乗していた原告に顔面多発性挫創並びに頭蓋内出血の傷害を負わせた。

2  治療経過並びに後遺症の発生

(一) 入院期間 昭和五六年七月八日から同年一〇月一七日まで一〇二日間

(二) 通院期間 昭和五六年一〇月一八日から昭和五七年二月一六日まで一一六日間(実治療日数一一日)

(三) 後遺症

顔面特に右眼周部、鼻根部、右頬部に長さ五二ないし七ミリメートル、幅五ないし一ミリメートルの線條痕(一部は膨隆瘢痕)が多数残り、外貌に著しい醜状を呈し(後遺障害等級七級一二号該当)、寒気に触れたり、笑つたり、話をしたりする場合に右頬部に脱力感を伴う疼痛があり、頭痛、手のふるえなどの症状があり、局部の神経症状が残る(同一四級一〇号該当)。

3  損害

原告は、本件事故により、次のとおり合計二六七七万六九三〇円の損害を蒙つた。

(一) 治療費 一六九万九九五五円

(二) 付添看護費 八万〇五〇〇円

一日当り三五〇〇円、昭和五六年七月八日から同月三〇日まで二三日分。

(三) 入院雑費 一〇万二〇〇〇円

一日当り一〇〇〇円、入院期間一〇二日分。

(四) 交通費 一万一四二〇円

原告の通院交通費一日当り六六〇円、通院日数一一日分の合計七二六〇円及び家族付添交通費四一六〇円の合計。

(五) 休業損害 三〇万一一四五円

原告は、本件事故当時美容師見習として稼働し、一日当りの平均賃金二六六五円を得ていたので、入通院日数合計一一三日分の休業損害は右の額となる。

(六) 後遺症による逸失利益 一二九八万一九一〇円

原告は、右のとおり美容師見習の職にあり、将来は独立して美容院を開業することを希望していたものであるが、前記後遺症、特に著しい外貌醜状のため職業上の支障、不利益を生ずることになり、労働能力の五六パーセント(障害等級七級の労働能力喪失率)を失つたとみるべきであるから、本件事故当時の原告の一日当り平均賃金二六六五円(年間九七万二七二五円)を基準とし、症状固定時(昭和五七年二月一〇日)の年齢二〇歳から就労可能な六七歳まで四七年間の逸失利益をホフマン式により中間利息を控除して算出すると、別紙計算書(一)のとおり一二九八万一九一〇円となる。

(七) 慰藉料 一一一〇万円

(1) 入・通院慰藉料 一一〇万円

(2) 後遺症慰藉料 一〇〇〇万円

原告は、本件事故当時満一九歳の未婚の女性であるが、前記後遺症、特に外貌醜状により対人関係も消極的にならざるを得ず、将来の結婚にも不安を生じ、筆舌に尽し難い精神的苦痛を蒙つているが、これに対する慰藉料は少なくみても一〇〇〇万円とするのが相当である。

(八) 弁護士費用 五〇万円

4  損害の填補

原告は、右3の損害のうち、自賠責保険より八三六万円、被告加入の任意保険より四二万四七七二円、合計八七八万四七七二円の支払を受けた。

よつて、原告は、被告に対し、自賠法三条により、右3の原告の豪つた損害額二六七七万六九三〇円から右4のとおり支払を受けた八七八万四七七二円を控除した残額一七九九万二一五八円の内金一〇〇〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五六年七月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実のうち、原告が(一)及び(四)の各損害を蒙つたことは認め、その余は不知。

4  同4の事実は認める。

三  被告の主張

1  損害の填補について

原告は、原告が自認する自賠責保険及び任意保険からの支払いのほか、治療費一六九万九九五五円についても被告からその支払いを受けている。

2  逸失利益について

原告の後遺症は外貌醜状に関するものであつて、これは本来労働能力の喪失とは関係のないものである。そして原告の就いている美容師という職種は、主として技術、話術に負うところが大きいものであるから、外貌醜状により直ちに労働能力を喪失するという特殊な事情も認められず、したがつて、原告の逸失利益の主張は失当である。

仮に、原告が右後遺症により労働能力の喪失を来すことがあるとしても、原告が六七歳まで稼働しうるかは必ずしも明らかではなく、加えて原告の傷痕が現在次第に消失してきていることも考え併せると、労働能力の喪失が就労可能年齢の六七歳まで継続するということはあり得ず、原告の逸失利益に関する主張はこの点でも失当である。

3  仮に、原告にその主張する損害が生じているとしても、原告と被告とはドライブを共にする仲であり、本件事故も花火遊びに出かけての帰りの事故であるから、好意同乗による相殺が損害額の決定につき斟酌されるべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2の事実及び主張は争う。

3  同3の主張は争う。

原告と被告とは、それぞれの友人が恋人同志の関係にあつた関係から二、三度顔を見たことがある程度で親しい関係にあつた訳でもなく、本件事故当日は、原告が寮にいたところ、原告の友人がその恋人と被告を伴つて花火をしに行こうと誘いに来たことから、原告は無理に誘われて行くかたちとなつたもので、右のような原、被告間の関係や同乗に至る経過よりすれば、衡平の観念より同乗者につき賠償額が減額される好意同乗には該当せず、仮に減額が認められるとしても、それは慰藉料に限り、その割合も限定すべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実によれば、被告は、自賠法三条により、本件事故によつて原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。

二  そこで、原告の損害について判断する。

1  原告の治療経過並びに後遺症の発生

成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、第五号証の一、三、原本の存在並びに成立につき争いのない甲第五号証の二、原告本人尋問の結果により昭和五七年二月ころ撮影の原告の写真と認められる甲第六号証の一ないし六、同じく同年夏ころ撮影の写真と認められる同号証の七ないし九によれば、原告(昭和三六年八月九日生の女子)は、本件事故発生の翌日である昭和五六年七月八日から同年一〇月一七日まで一〇二日間小西第一病院に入院し(うち昭和五六年七月三〇日までの二三日間は絶対安静加療が必要であつたため付添看護を要した。)、同月一八日から昭和五七年二月一六日までの期間中一一日間同病院に通院して治療を受け、同日ころ顔面特に右眼周部、鼻根部、右頬部の多数の線條痕(長いものは五センチメートル以上、短いものは二センチメートル以下、一部は隆起し瘢痕状をなす。)及び右頬部軽度圧痛の後遺症状が固定し、保険給付を受けるに当つて後遺障害等級七級一二号に該当する旨の認定を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  損害額

(一)  治療費 一六九万九九五五円

本件事故により生じた原告の傷害を治療するための費用として一六九万九九五五円を要したことは当事者間に争いがない。

(二)  付添看護費 八万〇五〇〇円

右1で認定したとおり、原告は入院期間のうち二三日間付添看護を必要としたが、その費用は一日三五〇〇円の割合による合計八万〇五〇〇円とするのが相当である。

(三)  入院雑費 一〇万二〇〇〇円

右1で認定したとおり、原告は本件事故による受傷のため一〇二日間の入院を余儀なくされたが、経験則上その間の入院雑費として一日一〇〇〇円の割合により合計一〇万二〇〇〇円を要したものと認められる。

(四)  交通費 一万一四二〇円

原告が交通費として合計一万一四二〇円の損害を蒙つたことは当事者間に争いがない。

(五)  休業損害 三〇万一一四五円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第四号証の一、二によれば、原告は、昭和五六年四月に福岡市内の美容院に美容師見習として就職し、同年四月及び五月はいずれも月額七万一〇〇〇円、同年六月は同八万一八九六円の賃金を得ていたので、事故前三か月の平均賃金は一日当り二四六〇円(円未満切捨、以下同じ。)となるが、退院直後の同年一一月には月額八万円の賃金を得ており、同じ職場に勤める同僚のそれが同年四月及び五年はいずれも原告と同じ月額七万一〇〇〇円であつたのが、同年六月には同八万円となり、その後原告が休業していた期間には概ねこれを更に上回る賃金を得ていることから、本件事故当時の原告の平均賃金は、少なくとも原告の主張する一日当り二六六五円には達していたものと認められる。そして、原告は前示入通院の期間合計一一三日は休業を余儀なくされたものと推認されるから、その間の得べかりし利益は合計三〇万一一四五円となり、原告は右同額の損害を蒙つたものである。

(六)  後遺症による逸失利益 二六三万〇六三二円

原告が本件事故により顔面に線條痕による醜状と右頬部軽度圧痛の後遺障害を生じたことは前示のとおりであるところ、右頬部の圧痛は、独立して障害等級が認定されていないことから極く軽微なものと考えられ、また、顔面醜状については、前掲甲第五号証の三、第六号証の一ないし九及び弁論の全趣旨によると、症状固定時にかなり強い赤色を呈していた線條痕は、本件口頭弁論時にはやや赤味が薄れ、依然醜状をなしているものの以前ほど目立たなくなつており、今後も時間の経過により若干好転する可能性がないではなく、化粧方法や眼鏡着用によりある程度醜状を補正することも可能と認められる。

ところで、顔面醜状痕は、それ自体では本来身体的機能を損うものではないけれども、美容師のように客と接する職業においては、雇用者にとつて容貌の美醜等被用者が客に与える外見上の印象の善し悪しは全く無関心ではいられない事柄と考えられるから、年齢も若く未だ美容師として十分な技術を習得するに至つていない原告が今後右職業を続ける場合、右顔面醜状が様々な形で不利な条件となることは十分に予測され、また将来独立して美容院を経営するに至つた場合も顧客を得るうえで同様のことが予測されるから、本件において顔面醜状による労働能力の喪失は否定されるべきでなく、右後遺障害の特質、程度、原告の年齢等の事情を総合し、頬部圧痛の点も考慮すると、原告は、本件事故による後遺障害により、症状固定時の年齢二〇歳から三〇年間その労働能力の一五パーセントを失つたものとするのが相当である。

そこで、原告の一日当り平均賃金二六六五円を基準とし、ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して原告の逸失利益を計算すると、別紙計算書(二)のとおり二六三万〇六三二円となる。

(七)  慰藉料 六九〇万円

原告は本件事故当時一九歳の未婚(弁論の全趣旨により認められる。)の女子であり、本件事故により長期間の入通院を余儀なくされたうえ、前示のとおりの後遺障害を生じ、多大の精神的苦痛を蒙つたであろうことは想像に難くないが、これまで認定したとおりの本件事故の態様、原告の受傷の内容及び程度、入通院治療期間、後遺障害の内容及び程度、原告の年齢その他一切の事情に加え、原告と被告は友人関係にあり、本件事故は当日他の友人三人と共に二台の車に分乗してドライブに出かけた帰途生じたもので、被告が助手席の原告との雑談に気をとられ前方注視を欠いたことがその原因であること(成立に争いのない甲第八号証の三、四、一二によつて認められ、これに反する原告の供述は措信しない。)も総合して勘案すると、原告の右精神的苦痛に対する慰藉料としては六九〇万円(後遺症慰藉料六〇〇万円、入通院慰藉料九〇万円)をもつて相当とする。

(八)  損害の填補 一〇四八万四七二七円

原告が治療費として一六九万九九五五円、自賠責保険より八三六万円、被告加入の任意保険より四二万四七七二円、合計一〇四八万四七二七円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

(九)  弁護士費用 一五万円

本件事案の内容、右(一)ないし(八)により認められる原告の損害の額等を考慮すると、本訴提起遂行に要する弁護士費用のうち、本件事故による損害として認めうるものは一五万円とするのが相当である。

(一〇)  以上(一)ないし(九)により、原告の損害額合計は一三九万〇九二五円となる。

三  よつて、原告の本訴請求は、被告に対し、自賠法三条による損害賠償請求権に基づき、一三九万〇九二五円及びこれに対する昭和五六年七月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三代川三千代)

計算書

(一) 2,665(1)×365×0.56(2)×23.832(3)=12,981,910

但し (1)は昭和56年度の原告の1日当り推定平均賃金

(2)は後遺障害合併等級7級の労働能力喪失率

(3)は症状固定時(昭和57年2月10日)における原告の年齢20歳から67歳までの就労可能年数47年のホフマン係数

(二) 2,665×365×0.15(1)×18.0293(2)=2,630,632(円未満切捨)

但し (1)は労働能力喪失率

(2)は30年のホフマン係数

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